「市役所の仕事は、どの自治体でもだいたい同じ」

このようなイメージを持っている人も多いと思います。

たしかに、住民票や戸籍、税金、福祉、子育て支援など、多くの市役所に共通する仕事はたくさんあります。

しかし、実際の仕事内容は、自治体によって大きく異なります

市役所は、その地域で暮らす人の生活を支える組織です。

そのため、抱えている課題が違えば、市役所に置かれる部署や仕事内容も変わるのです。

この記事では、地域の特徴によって生まれる市役所の仕事を、実際の自治体の取り組みとともに紹介します。

市役所には共通する仕事も多い

窓口で海外の人に制度説明をする様子

「自治体ごとに仕事内容が違うなら、市役所の仕事に共通点はないのかな?」と思うかもしれません。

もちろん、そんなことはありません。

多くの自治体では、次のような仕事が共通して行われています。

  • 住民票や戸籍に関する仕事
  • 税金の課税や収納
  • 国民健康保険や年金
  • 子育て支援や高齢者福祉
  • 道路や公園の管理
  • 防災や危機管理
  • 人事や財政などの内部管理

市役所の仕事の土台になっているのは、こうした住民生活に欠かせない行政サービスです。

ただし、その土台の上にどのような仕事が加わるのか、また、どの分野に特に力を入れるのかは自治体によって異なります

海があるまちには海に関する仕事があり、観光地には観光に関する仕事があります。

また、水道、ごみ処理、消防、病院などの行政サービスも、市が直接運営している場合もあれば、都道府県や複数の自治体が共同で運営していることもあります。

市役所の仕事は、「共通する部分」と「地域ごとの特徴」の両方で成り立っていると言えますね!

なお、市役所の代表的な部署や仕事内容については、次の記事で詳しく紹介しているので参考にしてください。

なぜ自治体によって仕事内容が変わるのか

市役所の仕事が自治体によって違う理由は、とてもシンプル。

地域によって、抱えている課題が違うからです。

たとえば、次のような地域があります。

  • 農業が基幹産業の地域
  • 漁業が盛んな地域
  • 雪が多い地域
  • 観光客が多い地域
  • 基地や空港などの大規模施設がある地域
  • 人口減少が進んでいる地域

それぞれ、住民が抱える困りごとは異なりますよね。

海のない自治体には港湾に関する仕事はありませんが、港町では漁港の整備や水産業の支援、津波対策などが大切な仕事になります。

市役所の仕事は「どこでも同じ仕事をしている」だけでなく、「その地域で必要とされる仕事をしている」と考えるとわかりやすいですね。

地域の特徴によって変わる市役所の仕事

市内の地図を前に仕事の調整をする職員の様子

市役所の仕事内容は、地域の状況などによって大きく変わります。

ここからは、地域の状況によってどのような仕事が生まれるのか、実際の自治体の取り組みとともに見てみましょう。

海や港がある自治体の仕事

海に面した自治体では、港や漁港の管理、水産業のPRなど、海に関係する仕事があります。

たとえば、宮城県の気仙沼市は、水産業が盛んなまちです。

市役所の仕事にも、魚市場の運営や、漁業者への支援、水産物を生かした地域づくりなどが加わります。

また、海のある地域では、産業と防災を切り離して考えることはできません

津波が想定される地域では、避難場所や避難経路を整備したり、実際に避難訓練を行ったりすることも重要な仕事です。

同じ市役所でも、海のない自治体では、港や漁業に関わる機会はまずありません。

海のある自治体では、「海そのものが仕事の場所になることもある」ということですね。

農業が盛んな自治体の仕事

農業が盛んな自治体では、農家への支援や農地の維持、農産物のPRなどが重要な仕事になります。

たとえば、埼玉県深谷市は「深谷ねぎ」で知られるまちで、農業を中心とした産業のブランディングにも取り組んでいます。

深谷市は農産物のPRだけでなく、農業をまちの魅力につなげるために、様々な取り組みを行っているんですね。

ほかにも、新しく農業を始める人への支援や、農業に使う水路を管理もします。

また、動物に農作物を食べられてしまう「鳥獣被害」への対策も、市役所の仕事です。

農業を担当する職員は、役所の中で書類を確認するだけではありません。

農家や農業団体から話を聞いたり、農地の様子を見に行ったりすることもあります。

農家の高齢化が進み、農業を続ける人が少なくなっている地域もあります。

そのため、「今の農家をどう支えるか」だけでなく、「これから先、どうやって地域の農業を残していくか」を考えることも大切な仕事です。

山や森林が多い自治体の仕事

森林で現地調査を行う男性職員

山や森林が多い自治体では、森林を守ったり、林業を支えたりする仕事があります。

山の中を通る林道の管理や、大雨による土砂災害への対策も行います。

森林は、木材をとるためだけの場所ではありません。

雨水をたくわえたり、土砂崩れを防いだり、生き物が暮らす環境を守ったりする役割もあります。

そのため、市役所の仕事も、産業振興、防災、環境保全など複数の分野にまたがることになります。

埼玉県秩父市には、「森づくり課」という部署があります。

森づくり課では、市が持つ森林を管理したり、森林を所有する人を支援したり、秩父でとれた木材を使ってもらうための取り組みを行ったりしています。

山に関する仕事では、林業をする人や森林の持ち主と話し合うことも必要です。

書類だけでは判断できない場合には、職員が実際に山へ行き、現地の状況を確認することもあります。

山間部の自治体では、職員が作業着や長靴を着て現場へ向かうこともあります。

私の勤めていた市役所にも職員用の作業着がありました。

スーツよりも動きやすいため職員からは意外と人気で、私も良く着ていました!

雪が多い自治体の仕事

雪が多い自治体では、冬でも住民が安全に生活できるようにする仕事があります。

特に大切なのが、道路の除雪です。

とはいえ、職員が自分で除雪車を運転して、すべての道路の雪を片付けるわけではありません。

市役所では、除雪業者との契約や出動の判断、作業区域の調整などをメインに対応します。

たとえば青森市では、冬の都市機能を維持するため、毎年、どのように除雪を行うか計画を立てています。

市内をいくつかの区域に分け、多くの事業者と協力しながら除雪を進めています。

また、高齢者世帯など、自分で雪かきや屋根の雪下ろしをすることが難しい住民への支援も必要です。

大雪になれば、道路管理だけでなく、福祉、防災、交通、教育など、複数の部署が連携して対応することもあります。

雪の少ない地域ではめずらしい仕事でも、雪国では毎年欠かせない仕事なのです。

基地や大規模施設がある自治体の仕事

自衛隊や米軍の基地、空港などがある自治体には、こうした施設に関係する仕事があります。

基地や空港があることで、地域に仕事が生まれたり、多くの人が訪れたりします。

その一方で、飛行機の音や交通量の増加、事故への不安などを感じる住民もいます

市役所は、住民から相談を受け、国や施設を管理する組織に意見や要望を伝えることもあります。

直接基地のない自治体であっても、近隣自治体として意見や要望を出すこともあります。

神奈川県横須賀市には、米海軍や自衛隊の施設があります。

市の国際交流・基地政策課では、基地に関する情報を集めたり、国や米軍などと調整したりしています。

もちろん、市役所が基地そのものを管理しているわけではありません。

市役所だけでは解決できない問題も多いため、国、米軍、自衛隊、警察などと、長期的に調整することが重要になります。

また、千葉県成田市のように、大きな空港がある自治体も同じです。

国や県、空港会社などと連携しながら、空港の利便性を高めると同時に、飛行機の騒音などから周辺住民の暮らしを守る取り組みも進めています。

地域にとってのメリットと、住民が感じる負担、その両方を考えるのが市役所の仕事なんですね。

観光地の自治体の仕事

観光地で現地調査をする職員の画像

観光地の自治体では、地域の魅力を伝え、観光客を呼び込むことも仕事です。

観光情報を発信したり、イベントを開いたり、ホテルや観光協会と協力したりします。

楽しそうな仕事に聞こえますが、実は観光客が増えることで困ることもあるのです。

たとえば道路や電車・バスの混雑、ごみや騒音問題など、住民生活に影響する問題も出てきます。

そのため、市役所は観光客を増やすだけでなく、住民の暮らしを守ることも考えなければなりません

このあたりのバランスを取るのは、本当に難しそうですよね。

たとえば京都市では、観光客が同じ時間や場所に集まりすぎないようにする取り組みを行っています。

これは、混雑していない時期や時間帯を紹介したり、中心部以外の地域にも足を運んでもらったりする取り組みです。

こうした仕事には、観光を担当する部署だけでなく、道路、公共交通、環境、防災、文化財など、さまざまな部署が関わります。

観光地の職員は、地域をPRするだけでなく、まちの魅力と住民の暮らしをどのように守るかも考える必要があるんですね。

外国人住民が多い自治体の仕事

外国人住民が多い自治体では、使う言葉や国籍が違っても、必要な行政サービスを受けられるように環境を整えています。

たとえば、多言語による生活相談、行政情報の翻訳、日本語学習の支援などを行っています。

静岡県浜松市には、多文化共生センターがあります。

ここでは、外国人住民から生活についての相談を受けたり、地域で一緒に暮らしていくための取り組みを行ったりしています。

また、大規模な災害が発生した場合には、必要な情報を外国語で伝える仕組みもあります。

外国人住民と関わるのは、国際交流の担当者だけではありません。

住所の手続き、税金、健康保険、子育て、学校、防災など、市役所の多くの部署が関わります。

職員が外国語を話せれば便利ですが、大切なのはそこではありません。

日本の制度をよく知らない人にも、むずかしい言葉を使わず、分かりやすく説明できる体制が必要です。

外国人住民が多い自治体では、市役所全体で「誰にでも伝わる案内」を考える必要があるのです。

最近では、「こんな小さなまちにまで!?」と驚くほど、どこの自治体でも海外の人が手続きに来ます。

どの自治体でも、大なり小なり外国人向けの政策は行っているはずです。

人口減少が進む自治体の仕事

人口が減っている自治体では、新しく住んでくれる人を増やすための仕事があります。

これは、移住を考えている人の相談を受けたり、使われていない家を紹介したりする仕事です。

たとえば広島県の安芸太田町では、移住を考えている人に向けて、空き家や町営住宅、お試し住宅などを紹介しています。

一方で、人口減少への対応は、人を呼び込むことだけではありません。

住民が少なくなると、バス、学校、病院、商店、公共施設などを、今までと同じように運用することが難しくなります。

限られた予算や人員の中で、どの行政サービスを残し、どのような方法に変えるかを考えるのも重要な仕事なのです。

施設を統合したり、予約制の交通手段を導入したりする場合には、地域住民への説明も欠かせません。

人口減少が進む自治体の職員は、「人口をどう増やすか」だけでなく、「人口が減る中でも地域の暮らしをどう守るか」という課題にも向き合う必要があるんですね。

人口が増えている自治体の仕事

人口減少に悩む自治体がある一方で、住宅開発や鉄道整備などをきっかけに、人口が増えている自治体もあります。

人口が増えるとまちがにぎやかになり、税金の収入が増えることも期待できますが、保育園や学校、道路などの整備が追い付かなくなることもあります。

千葉県流山市は、子育て世代に選ばれるまちづくりを進め、人口を増やしてきた自治体として知られています。

特徴的な取り組みの一つが、駅前送迎保育ステーション。

保護者が駅の近くで子どもを預けると、バスで市内の保育所まで送ってもらえます。

仕事で電車を使う保護者にとって、子どもを預けやすい便利なサービスですね!

しかし、子育て世帯が増えれば、保育園だけでなく、小学校、中学校、学童保育も必要になります。

住宅地が広がれば、道路、公園、上下水道、ごみ収集などの整備も必要になります。

また、将来、子どもの数が減ったときに使われなくなる可能性も考える必要があります

今後の人口や年齢構成を予測しながら、必要な施設を計画する視点も必要になってきます。

人口減少地域では既存のサービスをどう維持するかが課題になりますが、人口増加地域では、増える住民に合わせてサービスをどう広げるかが課題になります。

同じ市役所でも、人口の変化によって必要な仕事は大きく変わるんですね。

同じ部署名でも仕事内容は違う

地図と観光用冊子を前に仕事のレクチャーをする職員の様子

市役所の組織図を見ていると、「地域振興課」「企画課」「危機管理課」など、似たような名前の部署を見かけます。

しかし、同じ部署名だからといって、仕事内容まで同じとは限りません

たとえば、「地域振興課」でも、ある自治体では「移住・定住の支援」を担当している一方で、別の自治体では「観光振興・商店街支援・自治会支援」などを担当していることがあります。

「危機管理課」も同じです。

海沿いの自治体では津波対策が重要になりますが、山間部では土砂災害への対応が中心になるかもしれません。

豪雪地帯では、大雪への備えや除雪体制の整備も「危機管理課」の重要な仕事になっている自治体もあります。

反対に、同じ仕事でも、自治体によって部署名が違うこともあります

さらに、市役所では組織改編によって、部署が統合されたり、名前が変わったりすることもあります。

部署名だけで仕事内容を判断すると、「実は違っていた」ということもあり得るのが自治体の仕事なんですね。

市役所を目指すなら「どんな地域か」にも注目してみよう

これから市役所を目指す人は、採用人数や通勤のしやすさで、受験する自治体を選ぶことも多いと思います。

もちろん、それも大切な要素です。

しかし、せっかくなら、「自分はどんな地域で働きたいのか」という視点も持ってみてください

海のあるまちで働きたいのか。

人口減少や地域活性化の仕事に関わりたいのか。

子育て支援に力を入れている自治体で働きたいのか。

観光や国際交流に興味があるのか。

自治体によって、経験できる仕事は大きく変わります。

そして、市役所に就職するということは、その地域の課題を支える仕事に就くことでもあります。

働く自治体が違えば、出会う人も、向き合う問題も、経験できる仕事も変わります。

これから市役所を目指す人は、「市役所で働きたい」というところから、もう一歩だけ考えてみてください。

「自分は、どんなまちで働いてみたいだろう?」

そう考えて自治体を見てみると、自分に合った志望先が見つかりやすくなるかもしれません。

これは、志望動機を考えるうえでも大切になってきます。

Q&A

Q&Aを開いて確認する
市役所の仕事は、どの自治体でも同じではないのですか?

すべての仕事が違うわけではありません。

住民票や戸籍、税金、福祉など、多くの市役所に共通する仕事もあります

ただし、地域によって必要な仕事は変わります

海がある地域なら港や漁業に関する仕事、雪が多い地域なら除雪に関する仕事があります。

観光客が多い地域や、外国人住民が多い地域にも、それぞれの地域に合った仕事があります。

「基本的な仕事は共通しているけれど、地域によって特色のある仕事もある」と考えると分かりやすいはずです。

同じ名前の部署なら、仕事内容も同じですか?

部署の名前が同じだからといって、仕事内容も同じとは限りません。

たとえば「地域振興課」という名前でも、移住を担当している自治体もあれば、観光や商店街を担当している自治体もあります。

反対に、同じ仕事でも自治体によって部署の名前が違うことがあります

さらに、組織改編によって部署が統合されたり、部署名が変わったりすることもあります。

やりたい仕事があれば、その部署に配属してもらえますか?

必ず希望する部署に配属されるとは限りません。

一般行政職として採用された場合、税金、福祉、子育て、観光、企画など、さまざまな部署で働く可能性があります。

また、何年か働くと、別の部署への異動もあります。

そのため、「やりたい仕事があるか」だけでなく、「その自治体全体に興味を持てるか」という視点も大切です。

志望する自治体にはどんな仕事があるのか、どうやって調べればよいですか?

まずは、自治体の公式サイトにある「組織図」を見てみましょう。

気になる部署が見つかったら、その部署のページを開き、どんな仕事を担当しているのか確認してみてください。

さらに詳しく知りたい場合は、自治体の広報紙や総合計画などを見る方法もあります。

まずは、「このまちは何に力を入れているんだろう?」という気持ちで見てみるだけでも、自治体ごとの違いが見えてくるはずです。

市役所を受験する前に、地域のことまで調べた方がよいですか?

調べておくことをおすすめします。

もちろん、すべての仕事を覚える必要はありません

ただ、「どんな地域なのか」「どんな問題を抱えているのか」を知っておくと、その自治体で働くイメージがしやすくなります

また、採用試験で「なぜこの市を受験したのですか?」と聞かれたときにも、自分なりの理由を考えやすくなります。

まとめ:市役所の仕事は地域の特徴によって大きく変わる

港町の自治体で、書類を前に仕事をするイメージ画像

市役所には、住民票や税金、福祉など、多くの自治体に共通する仕事があります。

一方で、海、山、雪、観光、人口の動きなど、地域の特徴によって生まれる仕事も数多くあります

同じ「市役所職員」という肩書でも、働く自治体が違えば、関わる住民、向き合う課題、経験できる仕事は大きく変わります。

これから市役所を目指す人は、「市役所で働きたい」だけではなく、「どんな地域で、どんな課題に向き合い解決していきたいのか」という視点でも自治体を見てみてください

興味のある地域や仕事が見つかれば、「なぜこの自治体で働きたいのか」という志望動機も考えやすくなります。

市役所の仕事を知るときは、仕事内容だけを見るのではなく、その仕事が生まれた地域の背景にも目を向けてみてください。

きっと、今までとは違った形で市役所の仕事が見えてくるはずです。

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